Workshop
「Slow-aging工学の展開」

講演概要

メディカルガスによる酸化ダメージの修復と予防

野田百美

近年、一酸化炭素(CO)、水素(H2)、硫化水素(H2S)などのメディカルガスに抗酸化作用があり、種々の保護効果が報告されている。その中でも、水素は2007年に脳虚血に対し治療効果があることが報告されて以来、多様な疾患モデルにおける治療効果について急速に研究が進んでいる。我々は、水素を含有する飲用水 (水素水)がパーキンソン病モデルマウスにおいて、活性酸素生成による脂質・DNA損傷を抑え、神経保護作用を示すことを報告した1)。視神経の虚血・再潅流モデルでは、視神経摘出後、潅流栄養液を無酸素・無グルコース(虚血)および再潅流によって消失およびわずかな回復を見せる複合活動電位が、10日間ほどの事前の水素水飲用によって驚くほど改善された。このことは、水素は単なる抗酸化剤ではなく、生体において、何等かの可塑的変化と酸化ストレスに対する抵抗性を獲得させることを示唆している。酸化ストレス抵抗性の分子メカニズムに関しては、現在のところ、シャペロン分子や抗アポトーシス因子の増加を観察している。今後、水素の作用機序を解明することにより、酸化ストレスによる種々の疾患の予防が可能になれば、slow agingの実現に一歩近づくと期待される。

1) Fujita K, et al. Hydrogen in drinking water reduces dopaminergic neuronal loss in the 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine mouse model of Parkinson's disease. PLoS One. Sep 30;4(9):e7247 (2009)