令和元年度研究等活動状況報告 Annual Report

令和元年度の研究活動状況について、中核推進者の先生方に報告を作成いただきました。

・山口 匡 教授

① 超高速組織性状定量法化法の開発

本学においてこれまでに腹部および皮膚疾患を主な対象として開発してきた超音波定量診断技術と,連携機関である富山大学で開発した超高速超音波イメージングによる動態の定量評価技術を組み合わせ, 拍動や微小な体動による「血管の変異と血流」および「周辺組織と血液内の成分」などを総合的に非侵襲で評価可能なシステムとアルゴリズムを構築した. 模擬生体試料での検討の結果,本技術では超音波の送受信システムの違いに依存せずに高い精度での性状評価が可能であることを確認した. また,ヒト頸動脈での検討により,毎秒1,000フレームの超高速計測においても1ms以下の短時間変動を評価可能であることを確認した.

ヒト頸動脈内血液の流速・散乱体径評価

ヒト頸動脈内血液の流速・散乱体径評価ベクトルマップヒト頸動脈内血液の流速・散乱体径評価短時間変動

        ベクトルマップ             散乱体径評価短時間変動

関連論文)Masaaki Omura, Hideyuki Hasegawa, Ryo Nagaoka, Kenji Yoshida, Tadashi Yamaguchi, Validation of differences in backscatter coefficients among four ultrasound scanners with different beamforming methods, Journal of Medical Ultrasonics 47(1), 35–46 (2020.3)

② 超音波診断の定量化・標準化に関する検討

超音波診断の定量化・標準化に関連して,北米において当該領域をけん引するWisconsin大学Madison校のProf. Timothy Hallとの連携を強化した.当初は超音波による生体組織の弾性評価法であるShear Wave Elastography(SWE)の標準化を想定していたが,現状で臨床応用されている各種の超音波診断法の検証までを含めて「送受信法」,「計測法」,「評価法」の基準作成も視野に入れた学術課題へと発展させることとした.

③ エラストグラフィ-の標準化に向けた検討

MRIを用いた生体組織の弾性評価法であるMREとSWEの標準化について,昨年度に引き続き複数の学会と連携して実施した.具体的には,日本放射線医学会内のJapan quantitative imaging biomarker alliance (J-QIBA)において菅がMRE,山口がSWEの標準会員となり,日本超音波医学会では山口が委員を務める「機器と安全に関する委員会」の中に山口が委員長,菅が委員として「SWEの標準化に関する小委員会」を立ち上げ,4月には世界初の試みとして,SWE開発・販売事業者7社の協力の下に菅の作成した標準ファントムを用いて標準化に向けたベースデータの取得実験を実施した. この成果を各学会および北米放射線学会(RSNA)で発表し討議を行った.また,RSNAのQIBAとの連携による検討を進めている.

④ 若手人材育成

<博士後期学生のPD獲得>

博士後期課程3年の大村眞朗が,その研究能力と実績および将来性を評価され,JSPSのPDとして採用され,令和2年4月より共同研究体制にある富山大学・学術部研究工学系で研究開発を推進することとなった.また,本学生は本プロジェクトの超音波領域で幅広いテーマに参画し,在学中に6編(最終年度に4編)の学術論文を発表するなど極めて高い能力を有しており,今後のプロジェクト推進に必須の人材であることから,富山大学と並行して本プロジェクトの特別研究員として千葉大学においても勤務することとなった.

<博士前期学生の海外長期研究>

博士前期課程1年の橋本諒哉がコロンビア大学およびリバーサイド・リサーチ(アメリカ)に,佐藤悠佑がウィスコンシン大学(アメリカ)に,伊藤和也がエイクス-マルセイユ大学(フランス)に,それぞれ一カ月強の長期間で滞在し,新規の共同研究の立ち上げと実施を行った.

<学生の受賞>

博士後期課程3年の大村眞朗,博士前期課程2年の溝口岳・齋藤勝也がそれぞれの研究発表で日本音響学会・学生優秀賞を受賞した.また,大村は大学院融合理工学府プログラムにおける先進科学賞,溝口は千葉大学学長表彰,齋藤は医用画像学会大会優秀賞なども受賞するとともに,財団系の外部資金として国際会議参加のための海外渡航支援なども受けている.

・兪 文偉 教授

「MREPT(Magnetic Resonance Electrical Property Tomography)によるIn vivo生体組織電気特性の再構成」の研究を行っている。生体組織の電気特性(導電率、誘電率)は、理論上、CT、MRIよりも高い組織間コントラストを達成できる。MRIの動作原理に基づくMREPTは、MRで検出したラジオ波(RF: Radio Frequency)磁場(以下B1)に含まれる生体組織の電気特性情報を逆問題の解として、推定することで、電気特性のIn vivo再構成を可能にする。本グループは、物理に立脚する逆問題の数値的解法と機械学習の最新動向、課題を分析し、その両者の長所をMREPTに活かす枠組Physics-ML-coupled MREPTを提案した。その枠組では、1) 組織間境界付近の誤差と他のノイズ源を抑えるための粘性拡散項を数値解析手法に導入し、2) その拡張された数値解析法でB1マップから電気特性マップを求め、電気特性マップと理論値間の差をもって、B1から粘性拡散マップを予測する人工神経網を更新し、2)から反復計算を行う。複数小構造体を持つ複数テスト用ファントムに対し、その分野の代表的数値的解析方法よりも良い解が得られ、同時にその解に導く粘性拡散マップも学習的獲得している。図1は、一例を示す。この分野で始めて得られた粘性拡散マップである。その研究の一部分の成果を国際磁気共鳴医学会にて発表し、研究グループ賞も受賞している。機械学習と波動関連逆問題の数値的解法の研究分野にもインパクトを与える研究となる。

提案手法と従来手法の比較

・須鎗 弘樹 教授

ディープラーニングによる脳動脈瘤の高精度自動抽出に関する研究

ディープラーニングによる脳動脈瘤の自動検出に関する研究を行った(医学部附属病院放射線科との共同研究).ディープラーニングの入力として,従来,2Dあるいは3DのMRA画像が用いられていたが,本研究では,これら両方を使うマルチモーダルCNNを構築し,従来の精度を凌駕することが示された.低偽陽性でも最も高感度の結果を示し(図1),実際の抽出画像においても,偽陽性は大幅に軽減し,最も適確に脳動脈瘤を抽出できている(図2).本成果は放射線医学分野で世界トップの学会である北米放射線学会RSNA2019で,口頭発表ならびにデジタルプレゼンテーションの両方で採択された.その後,本手法は,学習用のデータ提供元の医療機関以外のMRA画像に用いても,最も高精度であることがわかり(つまり,外部テストでも高精度),高IFの雑誌に投稿予定である.

ディープラーニングによる脳動脈瘤の高精度自動抽出1	ディープラーニングによる脳動脈瘤の高精度自動抽出2

・菅 幹生 准教授

① マルチモダリティ・マルチスケールでの高精度粘弾性測定に向けたコンパクトMRエラストグラフィシステムの開発

生体組織の粘弾性をMRIにより非侵襲的かつ定量的に評価する手法としてMR elastography(MRE)がある.本研究では,臨床用MRI装置よりも高感度・高空間分解能なコンパクトMRを利用した粘弾性測定システムを開発することを目的とした.MRI制御プログラムと外部加振装置の開発により,臨床用MRIを用いるMREでは取得困難な200から400 Hzでの弾性波画像を取得可能とした.今後,レオメータや臨床用MREとの測定結果と統合することで,生体組織等の物性を詳細に観察可能になると考えられる.


コンパクトMRエラストグラフィシステムにより空間分解能200μmで取得した
生体模擬ファントムの複数周波数での弾性波画像


② コンプトン検出器付き部分リングPETジオメトリにおけるアーチファクト低減効果の検証

マルチモーダル装置として、既存のMRIにPET検出器を設置することでPETとMRIの同時撮像をするPET/MRI一体型検出器を放射線医学総合研究所と共同で開発している.本研究では,リングの一部を開放化した部分リングPETを部分吸収リングとみなし,開放部の反対方向に散乱検出器を部分リング状に配置した装置を提案し,モンテカルロシミュレーションを用いて有効性を検討することを目的とした.PET・コンプトン両イベントを組み合わせて画像再構成することで,アーチファクトが低減できることを確認した.

コンプトン検出器付き部分リングPETジオメトリと画像再構成結果