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超音波グループ 応用物理学研究室

高感度な造影超音波法の創出

直径1マイクロメートルより小さいナノバブルを造影剤として利用する場合の造影超音波法を提案し,基本現象の確認から提案法の性能検証まで実施しています. リンパ系(リンパ管やリンパ節)のイメージング法やドラッグデリバリシステムの薬剤動態評価法としての応用展開を目指しています.

造影剤がナノバブルの場合、造影エコーの強度が非常に弱いため組織エコーとの弁別が難しくなります. そこで,超音波照射時に起こる造影剤の移動現象に着目したイメージング法を提案しています(Fig.1参照). 造影剤の移動は造影エコーの位相情報を解析することで評価でき,これを画像化することで静止している組織とのコントラストが向上することが期待されます(Fig.2参照). よりコントラストが良い画像を取得するためには,造影剤の移動量を決定する超音波の送信パラメータの最適化や信号処理手法の改善が必要です.

Fig1 光学的に観察した造影剤の移動. 流路上壁に溜まった造影剤(線上の黒い影)が動いている様子が確認できます. 緑線は集束超音波の焦点領域を表しています. 青矢印は速度ベクトルを表しています.

Fig.2 超音波診断装置(臨床機)を用いた流路の可視化. グレースケールのエコー強度画像にカラーの位相情報(造影剤の移動)を重畳した画像です. ファントム内の深さ20 mmの位置に4本の流路を形成し,造影剤を流路内に滞留させ、流れが無い状態です. 流路の短軸断面を画像化しており,流路の直径は左から0.1 mm,0.3 mm,0.5 mm,0.9 mmです. 造影剤が存在する流路が可視化できていることがわかります.



多機能造影剤の開発

一つの製剤に複数の機能を持たせた多機能造影剤を開発し,診断・治療技術への応用を目指しています.

超音波・近赤外蛍光デュアルイメージング用多機能造影剤の開発

Fig.3 蛍光バブルの構造の模式図(左)と光学顕微鏡観察像(左:明視野像,右:蛍光像). 蛍光観察からバブルを覆うリン脂質膜に蛍光が確認できる.

超音波イメージングと近赤外蛍光イメージングは両者とも装置の可搬性、リアルタイム性がよく、またイメージング法としての互いの欠点を互いの利点で補償できます. 両者を有機的に融合したイメージング手法が確立できれば、新たな価値を提供できると考えています. 例えば、近赤外蛍光イメージングで脈管走行の全体像をとらえながら、注目箇所を超音波イメージングで細部観察するということも可能です. しかし、現状では各手法で用いられる造影剤の種類が異なるため、同一対象を同時に観察することができません。 そこで、近赤外蛍光プローブ(インドシアニングリーン誘導体)を超音波造影剤(バブル)に組み込んだ蛍光バブルを開発しています(Fig.3参照). 蛍光強度、エコー強度、安定性(寿命)、耐圧特性などの基礎特性評価から臨床機を用いた性能検証まで実施しています.

微粒子内包巨大ベシクル凝集体を用いた治療支援技術の開発

悪性腫瘍の外科手術において,精密な病巣位置のマーキングと腫瘍細胞が最初に転移を起こすとされるセンチネルリンパ節(Sentinel Lymph Node: SLN)の探索が同時に必要となることがあります. 滞留と追跡(移動)という相反する特性を同一の粒子に付加し、腫瘍マーキングからSLN探索までを複数のイメージングモダリティで観察できるような方法論を模索しています. 各種イメージングモダリティの造影剤を内包することができる巨大ベシクル凝集体(Giant Cluster Vesicles : GCV)がキー要素となります。 GCVは大きさが数十マイクロメートル以上あり、生体内に投与した場合に安定してその場所に滞留させることができます. X線用造影剤を内包しておくことで腫瘍マーカとして機能させることができ、術前の観察を基にした手術計画の立案などを行えます. 一方、近赤外蛍光イメージング用造影剤を内包させ、GCVを何らかの物理的刺激により破壊し、造影剤を放出させることできれば,術前・術中におけるSLN探索が可能となります. 滞留から追跡への機能の切替(GCVの破壊、内包粒子の放出)を強力超音波により実現する方法を提案しています(Fig.4参照)

Fig.4 GCVの模式図と光学顕微鏡像(左)と超音波照射によるGCVの破壊の様子(右). 右段はチューブにGCVを注入し、超音波を照射した際の挙動観察を行った結果です. チューブの長軸断面が観察されており、上段が超音波照射前、下段が超音波照射後の様子です. 超音波照射前にチューブ下部に溜まっているGCV(黒い影)が、照射後には分散し、その周囲に靄状の影が観察できます.



超音波キャビテーションの生体に対する安全性に関する検証

キャビテーションという,過大な負圧により空洞(バブル)が生じる現象があります. この現象は高音圧の超音波を照射することでも発生し、超音波キャビテーションと呼ばれます. 生体内で生じると生体組織が損傷してしまうことが知られていて、超音波診断装置ではこのキャビテーションが発生しないような出力で利用されています. 一方,超音波の治療支援応用の一つとして超音波凝固切開装置というものがあります. 外科手術中に組織の凝固や切開を行ううためのデバイスとして利用されています. 超音波キャビテーションを発生させることを目的とした装置ではありませんが、組織を把持するブレードを数十kHz程度の周波数で大振幅で振動させるため、その近傍では超音波キャビテーションが発生してしまいます(Fig.5参照). キャビテーションの視点から超音波凝固切開装置の安全性を検証する取り組みを行っています.

Fig.5 超音波凝固切開装置のブレード先端で発生するキャビテーション. 動作前(左)と動作時(右)のブレード先端を観察した動画です. 白い靄状の塊が超音波キャビテーションです. 無数の小さい気泡の集合で、気泡の発生、振動、圧壊が繰返し起こっています.